特別対談 本橋良祐医師×小倉全由監督(高校野球)

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日々の「積み重ね」が道を拓く

高校球児憧れの甲子園で優勝2回、準優勝2回の戦績を誇る名将・小倉全由監督(日本大学第三高等学校・硬式野球部)。

目標達成には何が必要なのか、どうすれば理想を実現するチームを作れるのかのヒントを求め、本橋眼科クリニックの本橋良祐医師が東京都町田市の同校を訪ねました。

本橋良祐医師(右)と小倉全由監督。日大三高・硬式野球部グラウンドにて

 

医師選びは信頼が最重要

良祐医師 今日は練習中のところを失礼します。私も高校球児でしたので、お会いできて光栄です。

小倉監督 こちらこそ、遠いところをありがとうございます。

良祐医師 遠いとおっしゃいますが、監督は船橋にご縁がおありと聞いています。

小倉監督 自分は昔、関東第一高等学校で野球部監督をしていたのですが、学校のある小岩からグラウンドのある白井市まで、毎日、船橋駅で乗り換えていました。駅前の東武や西武のデパートでよく買い物をしました。

良祐医師 駅前もだいぶ変わりました。

小倉監督 駅周辺はきれいになりましたね。ほんの数年前まで、信頼している整形外科の医師が船橋の病院に勤務されていたので、よく行きましたし、選手も通わせました。

良祐医師 町田から、わざわざ船橋の病院まで来ていたのですか?

小倉監督 はい。その先生は肘や肩を診るスペシャリストでして、今は池袋で開院されています。我々野球人にとって肘・肩は何より大事なものですから、信頼している先生がいるところなら船橋でも池袋でもどこへでも行きますね。

良祐医師 身近な病院のほうが通いやすいと思いますが……。

小倉監督 大切な体を診てもらうのですから、距離は関係ありません。リハビリやその後のこともあるので、「この先生なら」と信じて通えるかどうかが重要ですね。

 

 

野球における「目」の大切さ

良祐医師 高校球児にとって肘・肩が大事というのはよく分かりますが、目についてはいかがですか? 何かケアをされていますか。

小倉監督 いやぁ、それが……。学校の視力検査は年に1度あるのですが、それ以外は特には何もしていないですね。打撃不振の原因が視力低下だった――ということだってあるかもしれませんから、もっと気を付けなければいけません。反省すべきところです。

良祐医師 スポーツで大事なのは、場面を把握する力ですよね。学校で測る矯正視力も大事ですが、動体視力も重要と考えます。今は動体視力も測れるので、チェックしていくと有効かもしれません。

小倉監督 視力が落ちないようにする方法はないのですか?

良祐医師 「遠くを見ていれば近視が進まない」などとよく言われますが、残念ながら、そういうものではありません。というのも、成長期の近視は、眼球が大きくなることが原因だからです。焦点が網膜の手前になってしまって、近視が進むのですね。定期的に検査を行ってコンタクトや眼鏡を導入し、見えないと感じる時間を減らすことが大事だと考えます。

小倉監督 いろいろと対策ができるのですね。恥ずかしながら、高校生を指導して40年以上ですが、目の成長によって視力が変わってくるなんて感覚は自分の中にはありませんでした。どうしても目のことは後回しにしがちで、実は自分自身も、翼状片(※)を30年近く患っているんです……。

良祐医師 強い紫外線やほこりが原因と言われている病気なので、お仕事の環境的にリスクが高いのでしょうね。白内障などにもなりやすいので、ケアなさったほうがいいかと思います。グラウンドではサングラスなどを着用されていますか?

小倉監督 しないといけないのは分かっているのですが、ノックをしているときなどは、つい外してしまいますね。煩わしくて。それに、高校野球の世界では、サングラスなんて論外というような雰囲気があります。これは誰かが声を上げていかなければいけないことですね。

良祐医師 今では考えられないことですが、ついこの間まで「練習中には水を飲むな」という時代でしたから。意識が変われば、サングラスも当たり前になっていくと思います。目を守るために必要なことですから、子どもたちの着用も進めばいいなと思います。

 

「当たり前」を大事にする

良祐医師 ところで、小倉監督はこれまでに日大三高で2度の甲子園優勝を果たしています。目標達成に向けて、何を大切にされているのか教えてください。

小倉監督 スポーツの世界では、よく「心技体」と言われるのですが、中でも「心」、つまり「人として成長すること」を重視しています。選手たちは入学時はわがままだったり未熟だったりするので、同じことを何度も言い続けますね。そこは根気です。そして、できたときにはほめてあげる。その繰り返しですよ。

良祐医師 具体的には、どういうことを言い続けるのでしょうか?

小倉監督 「どこを見られても恥ずかしくない人間であれ」と言っているので、そうあるためのことですね。でも、難しいことではありません。ルールを守るとか、ごみが落ちていたら拾うとか。例えばトイレの使い方にしても、もし汚してしまったら、「トイレ掃除の係がいるからいいや」じゃなくて、その場ですぐに自分で洗い落とすように指導しています。「そうすると次の人が気持ちいいだろう?」って。そういう感覚が身についてくると、例えば電車で高齢者を見かけたら席を譲るといった行動が自然にできるようになります。それで「ありがとう」と言われると、もっと何かがしたくなる。そうやって人間が大きくなっていくと、周りから応援してもらえるようになるし、その応援によって自分がより頑張れるようになる。人の輪ができていくんです。

良祐医師 ルールを守り、当たり前のことを大事にしていくということには共感します。私たちも、業者から「そこまでやらなくても大丈夫」と言われぐらいに機器のメンテナンスを細かく行っているのですが、それは診察や手術の最中に絶対に機器の不具合を出さないという決意からです。配線は大丈夫か、接続はどうかといった小さな当たり前の積み重ねがミスや不具合を防ぎます。当院は「患者さまが、本当にここに来て良かったと誇ってもらえるクリニックにしよう」というスローガンを立てているのですが、そのためにはまず自分たちがプライドを持ち、感謝の心で準備しなければいけないと考えています。

日大三高・硬式野球部出身で、本橋眼科クリニックスタッフの湊谷俊寛さん(右)と小倉監督

 

「やり切る」が成長の糧

良祐医師 もう一つ質問させてください。私は本橋眼科クリニックをより良くしたいと思っているのですが、そのモチベーションをスタッフ一人ひとりに持ってもらうにはどうすればよいのでしょうか。いわば、理想を実現するチーム作りのコツです。

小倉監督 人が成長するうえでは成功体験が重要なのですが、実はその機会は、日々の中に溢れているのですね。我々野球部の例で分かりやすいのは、練習でやる12分走です。12分間走り続けるのですが、そのときに「おれは遅いんだ」と決めてかかると、いつまでも後ろをいやいや走ることになる。でも、「昨日より50メートルでも長く走るぞ」と決めて走れば、それは挑戦だし、達成感につながるんです。大事なのはやり切ること。そしてそれは自分自身がいちばん分かることなのですね。だから、とにかく目の前のことを一生懸命やることが大事です。それが次の一歩につながっていくのです。

良祐医師 毎日「一生懸命」を積み重ねて成長していくということですね。とても刺激を受けました。

ところで監督。当院には日大三高野球部出身のスタッフがいるんですよ。

小倉監督 湊谷俊寛さんですね。就職などの節目で折々に報告してくれるので聞いています。1年生からベンチ入りする逸材で、3年生のときには中心選手で活躍してくれました。甲子園の土を踏ませてやれなかったのは監督の責任だと今でも思っています。

良祐医師 私は前に勤めていた病院で出会ったのですが、チームがどう活性化するかを常に考えている人だなと感心して、スカウトしたんです。今日の監督のお話からも、仕事の中にやりがいを見出していく彼の姿勢の原点がここにあることがよく分かりました。

小倉監督 そんなふうにお褒めいただけると本当にうれしいです。今日は、自分にとっても目の大切さを見直す良い機会になりました。

良祐医師 何か目のことでお困りごとがあったらいつでもご相談ください。今日はありがとうございました。

(2023年1月28日・対談)

 

【プロフィール】

小倉全由・おぐらまさよし 1957年、千葉県生まれ。日本大学第三高等学校教諭、同校硬式野球部監督。春夏を通じて甲子園出場通算21回(関東一校で4回、日大三高で17回)。春のセンバツで準優勝2回(関東一校と日大三高)、夏の選手権大会で優勝2回(2回とも日大三高)。著書に『「一生懸命」の教え方』(日本実業出版社)ほか。

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本橋良祐・もとはしりょうすけ 東京医科大学医学部卒業、東京医科大学病院勤務、西東京中央総合病院眼科部長などを経て、2021年、もとはし眼科院長就任。現在、本橋眼科クリニックにて主に手術を担当する

翼状片=白目の表面を覆っている結膜の下にある細胞が異常増殖し、黒目(角膜)の中央に向かって進入する眼疾

(対談はポスターにまとめられ、クリニックに飾られています)

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